作品について。
今回もやってきました。
紹介したい本は有川浩さんの阪急電車。
「図書館戦争」シリーズや「植物図鑑」など、誰もが一度は耳にしたことのある作品かと思います。
ところがどっこい、僕は有川浩さんの作品は今回の阪急電車が初です。
この物語の舞台はタイトルの通り阪急電車です。その中でも阪急電車各線の中でも全国的知名度が低いであろう今津線が主役となっております。
各章のタイトルが各停車駅となっており、見れば分かる通り往復16駅分の短編集となっております。
ただ、短編集というと1章ごとに完全に物語が切り替わってしまうものを想像してしまいますが、本作は違いました。
1章ごとに他の章で起こった出来事が深く関与して繋がっているので、僕は短編集ではなく長編小説として紹介したいです。
正直、ファーストコンタクトは最悪だった。
本作の僕の推しは翔子という美人OLです。
ただ……
ちょっと何も聞かずにこの初登場シーンあたりの文章を読んでほしいです。
ウェディングドレスもかくやと言う翔子の白いドレスを見た時の新婦の顔は忘れられない。大事にココロのアルバムにしまっておこう。
白は花嫁の色だから、ゲストは白いドレスを着てはいけない。結婚式の基本中の基本のドレスコードである。パーティー用に結った髪に挿した飾りまで純白にしてやったので翔子は記帳の段階から周囲に白い目で見られていた。
白いドレスを着て白い目で見られる、シャレが利いていていいではないか。白い視線の数々を思い出し、唇の片隅だけ吊り上げるように笑う。
正直!!ぶっちゃけ、ごめんなさい!!!
初登場シーンでの印象は最ッ悪でした!!!
あーはいはい。常識皆無の自称強気女性かな。
強気な女性は嫌いじゃないしなんなら大好物だけど、強気のベクトルを間違ってると痛い人・性格の悪い人になっちゃうんだよなぁ。
ただ性格が悪い女で終わってしまうなんてあり得ないと十二分に理解はしてはいるものの、やはり初登場のシーンは良くも悪くも強く印象に残りました。
えっと、最近胸糞漫画を読み漁ってるせいで引っ張られすぎたんだと思います(自戒)
さてここで浮かんでくる疑問ですが、なぜ翔子さんはウェディングに真っ白ドレスを着ていったのでしょうか。
ここでは詳しく書きませんが翔子さんは恋愛関係のもつれによって、元彼の結婚式に白ドレスを着ていくという復讐に走ったわけです。
そして、「大ッ嫌い!」から「好きィ…(トゥンク)」となったシーンを紹介します。
翔子は電車の中で孫娘を連れているおばあさんの時江さん(本作第二の推し)と会話することになります。
孫娘が白いドレスの翔子さんに興味を持ってしまうのですが、翔子さんのためを思いつつ「何があったんだい?」と話しかけます。まんまと意気投合してしまい、翔子さんと時江さんは会話を始めます。
終盤のこちらのシーンがものすごく痺れました。ごらんあれ!
時江は窓の外に視線を流した。線路に沿ってずっと古びた家屋が並んでいる。
「呪うには呪うだけの覚悟と贖いが要るものよ。あなたは我が身を傷つけてまで呪ったんでしょう、だとすればその決意に他人が賢しげに説教なんかできるものじゃないわ。そうでなくとも私はただの通りすがりの野次馬なんだから」
「……私、新婦より相当美人なんです」
「分かるわ」
そうでもなければこんな討ち入りには踏み切れない。
とっ…時江えええええええええええ!!!!!
となったのは内緒ですが。。。
ちゃいまんがな!翔子さんですよ!カッコ良すぎませんか。
ずっと引っかかっていたんです。そこまでせんでもいいんじゃないか…?その方が自分のためにもいいんじゃないのか…?と。
違うんですね。これは美人で良い女のプライドの戦いだったのです。
ここで「はいそうですか」と引き下がるわけにはいかなかったわけです。
そして一日ずっとつらみを体験していて最後にポロッと出てきたのが、「……私、新婦より相当美人なんです」なんですなんです!!!
(その後の時江さんの「分かるわ」に痺れたのは言うまでもなく)
翔子さんと時江さんの会話には終始痺れていましたね。
翔子さんの良い女は止まらない!
次は別の章の翔子さんです。
先ほど紹介した時江さんと翔子さんの会話から半年後のお話。
時江さんから紹介された小林駅へ引っ越した翔子さん。
お仕事が終わった帰り道で小学生の少女を見かけます。
その少女××さんはどうやら仲間外れにされている様子。
しかしそんなものに屈しない姿を見た翔子さんが気まぐれを起こして声をかけたシーンです。
「あなたみたいな女の子は、きっとこれからいっぱい損をするわ。だけど、見ている人も絶対いるから。あなたのことをカッコいいと思う人もいっぱいいるから。私みたいに」
だから頑張ってね。
翔子がそう言うと、××さんはハンカチから顔を上げた。
「お姉さん、幸せ?」
——痛いところを衝かれた。苦笑しながら答える。
「幸せになるはずだったんだけど、ちょっと失敗しちゃってやり直し中かな」
でも再就職は順調だった。住みやすい街にも引っ越せた。そして、——幸せが裏切った時も刺したいように刺した。後悔はない。
「でも、後悔はしてないわ。ちょっと出遅れたけど、絶対幸せになるわよ」
「じゃあ、ショウコもがんばる!」
あーもう、ほんとにやんなっちゃう!
誇り高き少女××さんと翔子さんの会話が、うまく言い表せないんですが、胸にグッときたんですよね。
半年前は憎悪とかいろんなドロドロに支配されていた翔子さんが、今では過去を清算して「絶対幸せになるわよ」と固く決意しているんですよ。
それを自分と似た匂いのする幼い少女に表明しているわけです。今どきの言葉で言うとエモいってやつですね。
そして何より最後の最後に自分と同じ名前という奇遇に出会うのもいいですね。
翔子さんは初登場から終幕まで一貫して強い良い女だった。なんかもう大好きです。
終わりに。
このシーン・セリフで翔子さんに落ちた!!なんてものはありませんでした。
正直最初は嫌い…いや、なんなら大嫌いでした。
ですが嫌いなエネルギーが大きい分好きになった時は振り幅が大きく、同じエネルギー分、いやそれ以上の好きで満たされるのだなと実感しました。
それはそれは噛めば噛むほど味の出るスルメのようで。
読み進めるごとに深まっていく愛…
同じ墓に入る、断固たる決意ってのができましたよ!!!!
今回は翔子さんだけではなく必ず時江さんや少女など誰かと一緒に紹介する形になりましたが、これが阪急電車の面白いところでした。
誰かが誰かを引き立てる。そして引き立てられた誰かがまた他の誰かを引き立てる。
そんな美しい流れが出来上がっていました。そう、それは線路を走る電車のように。
実は僕、読んでる途中に飽きがくることが多いんですが、本作は休憩挟まずに最後まで読み切ることができました。
本作の登場人物はどの方も(ただ一人を除いて)暖かい心の持ち主で、どの物語も心温まるものでした。
今度阪急電車に乗って聖地巡りなんかもしてみたいなぁと思うくらいよかったです。
みなさんもぜひ手にとってみてください。