作品について。
今回ご紹介する作品は、朱野帰子さんのわたし、定時で帰ります。です。
この作品は2019年4月からドラマがスタートしており、僕はリアルタイムで視聴していました。
何度も見返すほど大好きなドラマなので、原作を読みはじめました。
そのためどうあがいてもドラマの印象が強すぎて、いつもよりかは少し偏った読み方をしてしまったなぁと思いつつ、約300ページもある長編小説をあっという間に読みきってしまうのには驚いちゃいました。
やはり映像作品を先にみているとすらすらと頭の中に入っていきますね!
ただどうしても主人公は僕の大好きな吉高由里子さんでイメージされちゃいます!!
本作品はWEB制作会社が舞台となっています。
「WEB制作会社?はて?」という方もいるかと思いますが、企業のホームページやLPを制作している会社といえばわかりやすいと思います。
僕自身本職はシステムエンジニアのため、共感する部分は非常に多かったです。
絶対に残業をしないと決めていて定時退社を決める主人公の東山結衣を中心に描かれる、お仕事小説です。
自分は能力がないから残業して人一倍働かないといけないんだ!と思っている同僚や、子供ができると出世コースから外れることが許せないワーママ、無茶な仕事を振って部下を潰していくブラック上司など…様々な曲者社員が登場して現代の社会問題を取り上げています。
NO残業レディの決意に一目惚れ。
今回紹介する推しは主人公の東山結衣ちゃんです。
いやいやいや違いますよ!ドラマで僕の大好きな吉高由里子様が演じているからって贔屓しているわけではありませんよ!
…違いますよ?
冗談はさておき。
みなさんは仕事はお好きですか?残業してますか…?
僕自身会社員なりたての頃は周囲の顔色をうかがいながらなかなか帰ることができない時期もあったりしました。
そんな僕に気づいて上司が「僕は仕事があるから残ってるけど、自分の仕事が終わっていたら帰っても大丈夫だよ。」と声をかけてくれ、さらには「あ、そっか。僕が残ってるから帰りにくいのか。僕もなるべく定時で帰るようにするね」といった働きかけをしてくれたおかげで、ここ数年は僕も絶対に定時で帰るマンと化しています。
といいつつもみなし残業があり、残業しても無駄なので帰っている節もあるのですが。
上司は僕が入社した半年後にフリーランスへ転身し、僕自身も昨年転職したので今はもう一緒に働いてはいませんが、頼れる上司だったなぁといつも思い返しています。
特に信条があって定時退社をキメているわけではないのですが、主人公・結衣は違います。
物語の冒頭では案件のチーフをお願いされるのですが、「残業して働いてね?」という圧がありチーフをやるかどうか悩んでいました。
一悶着あり、チーフを引き受けることに。
「まさか君がチーフを引き受けて残業する決意をするとは…うん、ありがとね!」と言われてこう言い返します。
「仕事に命を賭けてしまうような危ない人たちに、この会社を牛耳られないためにチーフになるんです。残業なんかするわけない」
かっこいい…!!!
この時点で僕の両目はハートですよ。
定時で帰るのは怠惰ではなく努力の結晶だった。
物語を読み進めていくとなんとなくですが
という疑問が出てきます。
「お前は会社をなめてるのか。それとも俺をなめてるのか」
と、晃太朗に会議室に引っ張っていかれた。
結衣は味噌汁を火傷しないように気を付けて飲みながら、突きだされた紙を見た。
「ああ、先週出したキャリアシートか。まだ人事に出してないんですか?」
「今後十年のキャリアプランを書け、と俺は言ったよな?」
晃太朗は結衣の手からキャリアシートを奪い返して読み上げた。
「来年結婚、三十三歳で長女出産、育児休業を三年取得、三十六歳で長男出産、ふたたび育休を三年取得後、子育てが楽になるまで時短勤務希望――なんだこれは」
こういった良くも悪くも仕事に後ろ向きなシーンがたくさん散りばめられています。
そうです、仕事できるできない以前に人として…というのは置いておいて…!
ですが、彼女は仕事ができないからでもなければ、自分は全く仕事しないでほかの人に仕事を回して定時で帰っているわけではないのです。
定時で帰ってやるという確固たる信念で今までコツコツと努力してきて定時で帰る働き方を実現しているのです。
現に先ほどの引用では結衣を叱っていた晃太朗ですが、別のシーンでは東山結衣についてこのように述べています。
「なぜ彼女がチーフになれたのか教えてやる。この会社に誘われた時、石黒さんに言われた。制作部で一時間あたりの生産性が一番高いのは東山結衣だって。たしかに会社にいる時間は短い。仕事のスピードが元々飛び抜けて速いわけでもない。でも入社から十年かけて、ゆっくりだが、着実に作業効率を上げてここまできた。お前とは能力に差がある。それだけのことだ」
さらに、結衣本人はこのように述べています。
「私もそうなんだよ。定時になるたびに怖くてたまらなくなるんだよ。みんな私のこと、仕事できない女だって内心思ってるんだろうなって」
実際思われているのだ。結衣は目を伏せて言った。
「でもさ、信じるしかないんだよね。今日の自分は精一杯やったって。明日の自分はもっと仕事ができるようになるって。無理矢理そう信じて、定時に帰ってるんだよ」
サーセン!!!僕も正直仕事ができない人なんだろうなって思ってました…!
でも違いました。
本人もずっと負い目を感じながらも、それでも私は精一杯やったんだからって勇気を出してずっと定時で帰っていたわけです。
いつも定時で仕事を終える僕は、一日仕事をしっかりやり終えていたのだろうか。
「これは明日でいいか。今日はやる気しないし退社退社ァ!」と定時上がりを何度もしていた自分が心底恥ずかしいです。
結衣本人からしたらてめぇは私と一緒にすんなって感じですよね。
今日の自分をしっかり認めて明日の自分を心から信じているからこそ、成果をあげながらも定時で帰っているんですね。
彼女の考え方の根底にあるものや、強さを目の当たりにしました。
僕のこれからの仕事価値観を見直させてくれた、心に響いたシーンです。
終わりに。
いかがだったでしょうか。
お仕事小説は大好きです。僕は仕事が大好きだから。
それにくわえて僕と同じような仕事を取り扱っているので、何度も読むだろうなと感じています。続編をすぐに注文しました。
主人公の東山結衣だけではなく、一緒に働くメンバーの持つ苦悩も非常に共感できるもので、考えさせられる部分が多かったのも本作品の大きな特徴かと思います。
単に物語を楽しむだけではなく、仕事について少し考え直してみたいなとお考えの方はぜひ本作品を手に取ってみてください!
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