推し紹介

【号泣する準備はできていた】背中を押したくなる、切ない同性カップル。

号泣する準備はできていた:秋美・千花
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とんこ
とんこ
幸せだけどどこか満たされない。そんな不安定なカップルを僕は全力で推していきたい…!

作品について。

本日ご紹介する作品は江國香織さんの号泣する準備はできていた
直木賞を受賞した短編集です!

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全12篇あり、女性が主人公のお話です。

幸せな女性もいれば、苦悩の中にいる女性も描かれており…
しかし、どの女性もがどこか危なげな不安定さと心の強さを持っていて、僕はそういった不完全さに終始惹かれていました。

短編集ということで、1つの物語を5〜10分ほどで読み終わることができたので、隙間時間などで読み進めることができました!

同性カップルの幸福と苦悩。

今回の推し紹介は1名の特定人物ではありません。

本作品の『熱帯夜』に登場する秋美と千花の同性カップルです。

徐々にではありますが、恋愛の自由というものが認められてきているように感じます。
もちろんまだまだな部分もありますし、当事者の方々にしかわからない苦悩などもあるかと思います。

 秋美はスツールをまわし、私にまっすぐ向き直ると、愉しそうな目つきをした。
「言ってごらんなさい。何が不満なの?」
 片方の肘をカウンターにつき、その手で頭を支えている。とてもほんとうとは思えないくらい、特別できれいだ。
「何も」
 私は微笑んでこたえて、
「あるいは何もかも」
 と言い換える。
「だって私たち行き止まりにいるのよ」

このシーンで正直…うるっとしました。
そっか、この満たされない漠然とした不安を行き止まりと表現するのか…

 心情を吐露したのに、私の声はゆったりと落ち着いていて、甘やかな囁きにさえ聞こえる。行き止まり。実際、私たちは行き止まりにいるのだ。どんなに愛し合っていても堕胎もない。望みはみんな叶ってしまったし、でも私はもっともっと秋美がほしい。誰にも秋美を見られたくないし、秋美にも私だけを見ていてほしい。
 秋美は喉の奥で笑い声をたて、
「千花ちゃんはばかね」
 と言った。
「大好き」
 と言って、
「あいしてる」
と言って、私の膝に手を置いてすばやく体重を移し、唇にまっすぐ力強くキスをした。

あああああああああ!!!切ない!!!!
僕はこのシーンで生涯このカップルが平穏に暮らせるために命を捧げると決意しました…!

満たされている。けど満たされていない。
これは秋美ちゃんと千花ちゃんだけではなく、どこかの誰かも同じ気持ちのはずなんですよね。

てるる
てるる
ひとごとではない誰かがいるはずだよね

二人の空気感に思わず空を仰いだ。

このカップルはふたりの世界が出来上がっていて、どこか他とは違う空気感を持っているんですね。

その空気感がたまらなく好きで…!

読んでいる最中に本から視線を外して5秒、ゆっくり深呼吸をします。

スゥー…

ハァー

「あぁ…素敵なカップルだなぁ…」と噛み締めてまた本に視線を落とします。
そんなことをずっと繰り返していたらこの物語だけやけに時間がかかってしまいました。

読んで、ゆっくり咀嚼して、余韻に浸ったシーンを連続でご紹介させてください。

「たとえばいま大地震が起きて、私とあなた以外全員死んでしまうの。私とあなたしか残らないの。そうだったらいいのに」

これ以上ない愛の囁き…!

「私は千花ちゃんがとても好きよ。もう、フンダンにあいしてると言っていいわ」
 でも、と言ったら泣きそうになった。あわててビールをのみほし、三杯目を注文する。

「人生は恋愛の敵よ」
 私は、最後にひとことだけ秋美に釘をさす。

(中略)

 私のうしろに立ち、背中を抱きしめて肩ごしに頬と頬をつける。
「人生は危険よ。そこには時間が流れてるし、他人がいるもの。男も女も犬も子供も」
 しずかな声で囁かれ、私は根拠もなく安心してしまいそうになる。

痺れる…

「あー、幸福だ」
 私たちはそう言いあう。空はもう群青色じゃなく、かといってほんとうの黒でもない。
「ずーっとこのままならいいのに」
 私が言い、
「ずーっとこのままだよ」
 と秋美が言う。そして二人ともいっぺんに噴きだしてしまう。

僕が感じたこの二人の空気感の良さをなんとか言語化しようと格闘していますが…
書き始めて50分、書いては消してを繰り返して、未だ進捗は0です!!!!悔しい!!!!!!!!そろそろ本格的に焦ってきた!!!

このお話にはどでかい山場もなければ、緊迫したシーンもありません。
日常を切り取ったただのワンシーンなんですよ。

漠然と迫ってくる不安とか、見えないふりしたいけど避けては通れない恐怖とか。
こういった苦悩を口にして、お互い支えあって生きていく二人をみて
「この二人は一生この苦しみからは解放されないけど、その度にこうやって乗り越えていくんだなぁ」と。

きっとそんな今にも壊れてしまいそうな二人がどうしようもなく愛おしく感じたのかもしれません。

二人とも大好きだ!!!!!!!!!!!!!!

終わりに。

僕が好きな漫画にこのようなセリフが出てきます。

「幸せなやつは似たり寄ったりだけど、不幸なやつはそれぞれ違う」
「不幸と苦悩こそが人に魂を宿す」

当時は何のことやらと言った感じでしたが、今になってなるほどなぁと感じました。

今回紹介した『熱帯夜』以外の作品も非常に素敵でした。
各主人公が抱える不幸やら苦悩やら。。。短編だけど読み応えのある一冊だったかと思います。

もし興味が湧いた方はぜひ手に取ってみてください!

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とんこ
本の感想や意見を書くのは苦手ですが、好きになった登場人物について語るのが大好きです。 元気に推しを布教していきます。