作品について。
今回紹介する作品はこちら、二宮敦人さんの最後の医者は桜を見上げて君を想う。
医学生時代から友人だった三人のお医者さんを中心に話が進んでいきます。
常に最善を尽くして治療を進めるべきと考える福原。
病気の進行度や患者の人生を考慮し、患者にどのように生きてどのように死ぬか選択させる桐子。
そしてその二人の仲介役を担う音山。
本作品は全3章で構成されていますが、それぞれのタイトルに最初ギョッとしました。
- とある会社員の死
- とある大学生の死
- とある医者の死
医師のお話だし…ある程度覚悟はしていましたが、まさか目次の時点で三人の死が確定しているとは。
この時点で私の心はワクワクドキドキです。
医療系だし少し読みづらいかなと思って読み始めましたが、登場人物が絞られていて各章で誰に焦点が当たっているのかわかりやすいのであっという間に読み終わることができました。
旦那が病に犯された妊娠六ヶ月目の妊婦。
今回スポットを当てるのはタイトルの通り浜山京子という女性です…
旦那の浜山雄吾は、結婚して一年!もう少しで子供も産まれるし、仕事もでかいプロジェクトを任されイケイケどんどん!…そんなタイミングで白血病を言い渡されます。
ただ、同じ男として雄吾の気持ちはわかっているつもりです。
どんな時であっても妻には弱いところは見せたくないし、どんなに辛くても苦しくてもいつも通りを装いたい。
そんな具合で見舞いにきた妻を心配させないようにつとめる雄吾でしたが、うまくいかずに涙を見せてしまいました。
その時の!!!!!妻・京子の強さがノンストップ!!!!!
是非是非母性に包まれてください!
「一番怖がってるの、あんたの癖に。強がらなくていいの」
「……うるさいな」
くそ。こいつには敵わない。
「わかるよ。驚いちゃったんだよね。今日までずっと、普通に過ごしてきたのに……急にこんなことになって、入院なんて、びっくりしちゃったんだよね。雄吾って、そういう人だもん」
ぽん、ぽん。ゆっくりと一定のリズムで、京子が背中を優しく叩いてくれる。それは不思議と心を落ち着かせた。叩かれるたびに、その度に、悪いものが体から消え去っていくような気がした。
弱ってる時に言われたら泣いちゃうセリフランキング五指に入るセリフですよ。
—◯◯って、そういう人だもん
強がっちゃった部分とか今の自分の気持ちとかそういうの全部ひっくるめてそれがあなただもんねと受け入れてくれる優しさ、そしてトドメの背中ぽんぽん…
やはり男性は自分自身の性格とかそういうものを全部理解した上で認めてもらいたい生き物です。
完璧ですね。まさに僕が求めていた女性像です。今回も御多分に洩れず結婚を申し入れようとしましたが、京子さん既婚でしたね!!!
夫の死を目前にして出た本音。
正直この死に際のところを記載していいのかギリギリまで迷いましたが、タイトルで死を物語っているのでちらっと紹介だけして京子さんへの愛を語る時間を締めたいと思います。
いわば一章のクライマックスシーンです。
死に近づいていく夫を目の前にして、感情をあらわにするシーンです。
「子供が産まれるんだよ。あんたとの子供なんだよ。元気なんだよ、今も私の中で動いてるんだよ。ここに、ここにいるんだよっ。 生まれてくる子供を抱っこしてよ! 笑いかけてあげてよ! 名前を呼んであげてよ! 頭を撫でて、一緒に手を繋いで、お出かけしてあげてよ、川の字で寝てあげてよ!」
目の前が真っ赤になる。京子は必死の想いで、全身から振り絞るようにして金切声を発した。
今までずっと母性レディを貫いてきた京子でしたが、最後は夫に向かって叫ぶのです。
ここのシーンは正直ごめんなさい、めちゃくちゃ鳥肌が立ちました。
こんなこと言うとアレですけど、菩薩のように映っていた女性が泥臭く金切声を発する姿。めちゃめちゃのめちゃ心が打たれました。
婚姻届がどーたらこーたら、籍がどーたらと気持ちの悪い発言をしていた自分を大いに恥じております…!
彼女の苦しさとかそういったドロドロしたものが最後に爆発するシーンでしたがとても心動かされました。
終わりに。
いかがでしたでしょうか。
僕自身あまり医療系の小説って読みたくないんですよね。ただただ悲しくなる一方だって印象が拭いきれず…
でも本作品は余命を宣告されるような病に犯されたときどのような選択が善いのか、周囲の人の気持ちとか医者の考えとかさまざまな視点から捉えることができます。
そして読者に感動だけではなく、しっかり自分の今後について考えるきっかけを与えてくれるいいお話だなと率直に感じました。
悲しく切ない物語ではありますが、医療系のストーリーを敬遠している方にもぜひ読んでほしいと強く思える、そんな作品でした。
もし気になった方はぜひ手に取ってみてください!