作品について。
今回僕が紹介したい作品は、直木賞・本屋大賞ダブル受賞作の長編小説、蜜蜂と遠雷。
4人の天才ピアニストを中心に描かれているピアノコンクールの物語です。
僕自身幼稚園から約10年ほどピアノのレッスンを受けていて今でも趣味程度にピアノを弾いてます。
小学校の時はピアノを弾く女の子が大好きでした。
土日に当時好きだった子の家の前で外に漏れてくるピアノの演奏を何時間も聴いてたくらいです。
ですのでピアノコンクールの物語だと聞いたら読まずにはいられないわけですよ。
運命の女の子を見つけた。
読んでる最中、僕はずっとモヤモヤしていました。
この気持ちはなんだろう。
仕事中もずっとその人のことを考えていて頭から離れてくれない。
取り憑かれたように名前を反芻する。
彼女の初登場シーンを迎えた当時の僕はこのように述べたらしいです。
普段は天真爛漫でのんびり飾り気のない性格で弱い部分もあるけど、ステージに立つと一変して女神のような輝きを放ちピアノを演奏する様は僕が思い描いていた理想のタイプ!直球ど真ん中ストライク!!!はい可愛い!
無意識のうちに「婚姻届 書き方」でググってた自分に心底嫌気が差しました。
僕をぞっこんにした栄伝亜夜ちゃんの魅力とは。
彼女に会いたい一心で三回読んだので、なんでここまで僕が栄伝亜夜ちゃんに心を奪われてしまったのか分かったわけですよ。
人が恋をしてしまう瞬間ってほとんど次のパターンだろっていう方程式が僕の中にあります。
相手の「何か」に共感をしたとき相手に興味を持ち、好意を持ち始める。
共感は非常に大きな力で、「それわかるわー!」ってなった瞬間、心の距離は超特急で近づいてしまうわけです。
僕が栄伝亜夜ちゃんに共感したのは一次予選出場前のお手洗いでのシーン。
若い女の子二人が鏡で化粧直しをしながら「栄伝亜夜が7~8年ぶりにコンクール出るみたいだけど一次で落ちたらウケるよね〜」的な噂話をしています。
先に個室に入っていた栄伝亜夜ちゃんはそれを聞いてしまうんですね。
もしかして、あの子たちはあたしがここにいると知っていてわざとそんな話をしたのでは? ここにいるあたしに聞かせるために?
今あたしがここから出ていったら、外で待ち構えていて「ほら、いた」とくすくす笑われるのではないか。
こそこそ出ていった亜夜を見て笑う女の子たち。
そんな場面が繰り返し目に浮かんで、動けなかったのだ。
僕自身ものすご〜くネガティブで、例えば会話しながら笑っている女子高生と道ですれ違った時には
と感じてしまうくらいネガティブです。だからこそここを読んだとき、
わあああああああああああああ!!!!
亜夜ちゃん分かるよその気持ち!!!!!でもね!僕が守ってあげるからもう何も!!!心配しなくていいからね!!!!!!
とりあえずあの若い女の子たちには買ったばかりのお高い口紅がポッキリ折れてしまう魔法をかけておいたから大丈夫だよ!!!!!!
と電車の中で声をあげてしまうくらい共感してしまい、挙げ句の果てにわかーるわかるよ君の気持ち〜♪と心の中で歌ってしまいそうになりました。
でも僕はこうしてふと見せた弱い部分を見て、守ってあげたい欲がクレッシェンド(だんだん強く)しました。可愛い。
自分が持っていない相手の「何か」に惹かれて恋に落ちてしまう。
自分の持ってない部分を相手に見つけてしまったら、純粋に心からすごいって思うし、急に相手が素晴らしい人間に見えてきますよね。
ピアノを幼稚園からやってきた僕だからこそかもしれませんが、栄伝亜夜ちゃんのピアノの天才ぶりですよ。
僕が今作の中で、天才だな…と感じたのは、課題曲の中にあるカデンツァ(自由に即興的な演奏をする部分)の演奏をどうするか先生と話しているシーンです。
でもね、先生。
亜夜は言った。
雨の日もあれば風の日もあるし、自由に宇宙を感じて、というのに、今ここで感じた宇宙を何度も繰り返し練習するなんて、楽譜の指示に反してません?
そう言って、亜夜は「例えばですね」と、「雨の日」「秋晴れ」「嵐の日」「これは獅子座流星群の夜」など、五つばかりのさまざまなバージョンのカデンツァを弾いてみせたのだ。
…ね?すごいでしょ?可愛いでしょ?
栄伝亜夜ちゃんは自由に演奏してと楽譜に書いてあるからって、本番の舞台上で本当に一発勝負の即興で弾こうとしてるんですよ。可愛い。コンクール優勝候補の王子様もギョッとするわけですよ。
でもそこにはちゃんとした信念があり、それに基づいて実行して本番では素晴らしい即興の演奏をしたのだからすごいですよね!!!!可愛いー!!
曲げることのない信念、それを本当にやってのける度胸、そしてその感受性が僕には全くないので、彼女の天才ぶりを肌で感じて惚れてしまいました。可愛い。
なんだ、俺って栄伝亜夜ちゃんを愛する天才だったんだ…
もしも栄伝亜夜ちゃんと同棲していたら、
「これはどういう気持ちを表してるか分かる?」
と即興で演奏して、1分ほどの演奏が終わった後少し照れながら
「どう?」って聞いてきて
「え〜、なんだろ…わかんないなぁ。教えて?」
「君への愛を表現したんだけど、伝わらないかな…?」
それじゃあ、この用紙にサインとハンコお願いしていいかな?
そんなこんなで気づいたら彼女への愛情がフォルテッシシモ(極めて強く)されました。可愛い。
終わりに。
僕は栄伝亜夜ちゃんが大好きになりました。
ピアニストとしても、一人の女性としても。
何がいいってステージ上の顔と普段の顔のギャップですよね。
小学校の時に恋したあの子も普段はおちゃらけてくしゃっと笑っているのにピアノを前にすると真剣な眼差しに。
そして演奏が終わると安心感と達成感の入り混じった笑顔を見せる。
それが素敵だったんですよ。
なぜ忘れていたんだろう。
ピアノを演奏する女性の素晴らしさを。
忘れかけていたピアノを演奏する女性への果てなき想いを思い出させてくれた本作品には感謝しかありません…!
本当に思い出せて良かった。
長編小説で普段本を読まない方は少し気後れしてしまうかもしれません。
ですが2019年には映画化もされています。
祝祭と予感というスピンオフ短編集も出ていますので、ぜひ本作品を手に取ってみてはいかがでしょうか。